大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(タ)7号 判決 1969年4月30日

原告 甲野花子

被告 乙野太郎

主文

一、原告と被告とを離婚する。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告と被告とは昭和二七年三月頃恋愛のうえ結婚し同三七年四月一四日婚姻届をした。

二、原、被告は結婚当時より東京都○○区○○○町○○○番地に住み、被告はその住居地でプラステック金型製造業を営んでいた。

三、原、被告は平穏な共同生活を送っていたが、被告は昭和四一年八月に至り北朝鮮に帰国することを主張し被告のみ先に帰国しその生活が安定しだい原告を呼びよせることを確約した上同年八月二六日新潟港から出港し北鮮清津港に上陸し、同年一〇月一〇日付をもって前記被告の肩書住所地に居住している旨の便りが一度あっただけでその後原告が再三にわたり速かに呼寄せてほしい旨の手紙を出したが被告からは何の返事もない。

四、被告からその友人である高山某えの手紙によると被告はすでに他の女と重婚し、その女性との間に子をもうけたとのことである。

被告は北鮮に帰国するさい確約した原告を呼寄せることを実行せず、そのうえ帰国以来いささかも生活費の仕送りをしない。これは被告において悪意をもって原告を遺棄したものであり、かつ原被告の婚姻は継続しがたい重大な事由があるというべきであるから、被告との離婚を求める。

旨陳述し(た。)証拠≪省略≫

被告は公示送達によって送達を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

≪証拠省略≫を綜合すれば原告が請求原因として主張する事実をすべて認めることができる。

法例第一六条によれば離婚の準拠法は原因の発生した時における夫の本国法によるべきところ、朝鮮では南北においてそれぞれ正当性を争う政府のもとに異例の法秩序が南北一定の支配領域に行われている現況であって、わが国の法例にはかかる場合の規定を設けていないが、離婚の準拠法を定めた法例の趣旨に従い北朝鮮に生活の本拠を置いたと認むべき被告にとり国際私法の観念上もっとも密接な関係を有するものとみるべき北朝鮮地区において行われている離婚法を準拠法として適用するのを相当とするところ、当裁判所は同地区における離婚法令を正確には知ることができないけれども一、九四六年七月三〇日北朝鮮臨時人民委員会決定第五四号北朝鮮の男女平等権に関する法律第五条第一項に、結婚生活において夫婦関係の持続が困難でこれ以上継続しえない条件が生じた場合に婦人は男子と同等の自由な離婚の権利を有する旨、ならびに同年九月一四日同委員会決定第七八号北朝鮮における男女平等権に関する法律施行細則第一二条に定められた、裁判所は審議の結果とうていこれ以上夫婦関係を持続することができないと認定した場合には即時離婚が許可される旨の各規定の趣旨と、その後においても、夫婦関係をそれ以上継続しえない場合を離婚原因とする一、九五〇年三月七日最高裁全員会議決定第二号離婚訴訟の解決に関する指導的指示、裁判離婚制を確立したとみられる一九五六年三月八日内閣決定第二四号ならびに右にともなう同年同月一六日司法省規則第九号離婚事件節次に関する規定等でも北朝鮮においては夫婦がとうていそれ以上婚姻を継続しがたい事由があると認定される場合には裁判上離婚が認められる趣旨の離婚法が施行されているものと推認することができ、前記認定の事実は右離婚原因に該当するものというべく、これはわが民法第七七〇条第一項第五号でも裁判上の離婚原因と定められているから本件離婚請求は正当として認容すべきである。

よって訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 地京武人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例